林總さん著者
林 總
日本経済新聞出版社
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久しぶりの経済小説。
小説とは言え、実践的な会計スキルが身につくと謳っているだけあって、なかなか読みやすい内容。
物語りは、これからの経済を見据えて、あえてハーバード大学というブランドを選ばずシンガポールの大学でMBAを学び首席で卒業した主人公団達也が、メーカーの中小企業に就職する事から始まる。
ここまでだと、ある一流サラリーマンのサクセスストーリーに見えなくも無いが、実際は主人公本人が選択した道ではなく、全ては師と仰ぐカリスマコンサルタントの宇佐美秀夫の助言で進んでいる。
実社会においても、アジア経済の中心は日本ではなくシンガポールに集中していると感じているので、ハーバードではなくシンガポールを選ばせる宇佐美氏には頷ける。
そもそも大学とは何をするところか?
勿論学問を学びに行くところでもあるが、とても重要な人脈形成というものがある。
日本人が世界に羽ばたきたい!
と思うのであれば、欧米社会に飛び込むより、アジアで力を持っている方が十分世界を渡り歩けるだろう。
だって自分らアジア人だもの。
それはさておき、主人公は成績優秀だが実務経験が無い。
それ故に学んだ知識とリアルな現場のギャップに奮闘する主人公。
と、まぁここまでは経済小説の設定では珍しくも無いのだが、本作は登場する人物達が曲者ばかり。
と言うより、実社会にも未上場の家族経営会社において無きにしも有らずな人物像にハラハラさせられる。
生まれながらの悪しき心ではなく、それが当り前だと何の疑いも持たずにやっていた事が不正だったと。
そういう事は会計だけではなく普段の生活でも沢山ある。
知らないという罪だな。
管理会計を学びたい!
製造業の複雑な会計基準のリスクプロセスって??
なんてな事を実践の応用で学びたい人には、主人公が入社した会社の帳簿から不正を暴くまでの説明を、BS、PLの表に書き込みして説明しているので文字だけではない目で確認が出来るので理解しやすいだろう。
本作は一気に読み終えた。
「次はどうなるんだろう!」
ワクワク!!!
と言う心躍ったから読み進んだのではなく、登場人物達がドロドロと裏でうごめき、その展開にハラハラするのだ。
本にはいろんな読み方、読ませ方があるとは思うが、本作は楽しみで読み進んだというより、「ヤバイ!早く、早くぅ!!!」という危機感とある種の不快感から結末への安堵を求めて進むのだ。
相変わらずの回りくどい書き散らかしで的を得ないが、リアル感が感じれる本書は現実逃避をしない作品としてお勧めである。