破産執行人 |
2009-1-31 12:13 |
杉田望さん 著書
杉田 望 講談社 売り上げランキング: 256193
経済小説である。
著者の作品は初めて読んだが、プロローグから第一章にかけて登場人物が勢ぞろいする。
正直、現実世界でも顔と名前を覚えるのに時間がかかる自分としては、登場人物の多さになかなか誰が誰でというのが一致しなかった。
実は読み終わった今も、最初のシーンで出てきた人達と終わりに自分の中で出来上がった人物像とが一致していない。
しかし、内容は読み進む内に面白くなる。
未上場会社の老舗の製菓会社を巡って経営権争いが勃発するというのが大まかなストーリーの表面だが、その裏面では上場益に群がるドロっとした話から、事業を守ろうとする人々の思い、一族経営者の公私混同、様々なドラマが描かれている。
そもそも経済小説は、現実社会をモチーフにしたものが多く、時には皮肉もあり、時には教えもあり、大変勉強になるし感慨深い。
個人的にそういった部分が好きで読み漁ることが多い。
「会社は誰のもの?」よく出る言葉だ。
株主、経営者、労働者、その立場で答えは違ってくるのかもしれない。
労働者「労働者がいなければ商品もサービスも完成しない」
経営者「事業がなければ労働者を雇うこともない」
株主「資金がなければ事業を起こせない」
全てその通りだと感じる。
ただし、一人で自分の貯金で事業を起こし、自分だけで運営して成り立っている会社ももちろん存在する。
その場合、会社はその個人のものか?
私は違うと思う。
個人事業の場合、全ての収支は個人収入と相殺されるため個人のものであると言えるかも知れないが、それでも私は会社や事業は「社会のもの」だと思う。
必要としている社会があるからその事業があり、そのサービスを提供するために労働者がおり、その事業を継続させるために経営者がいて、資金出資の株主がいる。
株主、経営者、従業員は時代の中で移り変わる。
しかし会社は、必要とされている限りいつまでもあり続ける。
創業何百年という会社は社会に末永く必要とされているのだろう。
この本も「会社は誰のもの?」という言葉が見え隠れする。
答えはそれぞれの価値観だが、小説の中だけの話とは思わず、自分の環境に置き換えて考えてみるのもたまには良いかも知れない。
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